ROCK、POPの名盤アワー

~ALBUMで堪能したい洋盤、邦盤、極めつき音楽遺産~

#009『REVOLVER』The Beatles(1966)

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ビートルズのアルバムを選ぼうというときに、最初に脳裏に浮かんだのがこのジャケット。

 

リボルバーザ・ビートルズ

 

sideA

1. Taxman(タックスマン)

2. Eleanor Rigby(エリナー・リグビー)

3. I’m Only Sleeping(アイム・オンリー・スリーピング)

4. Love You To(ラヴ・ユー・トゥ)

5. Here There and Everywhere(ヒア・ゼア・アンド・エブリホエア)

6. Yellow Submarine(イエロー・サブマリン)

7. She Said She Said(シー・セッド・シー・セッド)

sideB

1. Good Day Sunshine(グッド・デイ・サンシャイン)

2. And Your Bird Can Sing(アンド・ユア・バード・キャン・シング)

3. For No One(フォー・ノー・ワン)

4. Dr. Robert(ドクター・ロバート)

5. I Want To Tell You(アイ・ウォント・テル・ユー)

6. Got To Get You Into My Life(ゴット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ)

7. Tomorrow Never Knows(トゥモロー・ネバー・ノウズ)

 

 

The Beatles

John Lennon : Vocal, Guitar, Hammond organ, Mellotron, Tambourine

Paul McCartney : Vocal, Bass, Guitar, Piano, Clavichord

George Harrison : Vocal, Guitar, Bass, Sitar, Tambura, Maracas, Tambourine

Ringo Starr : Vocal, Drums, Maracas, Tambourine, Cowbell, Shaker

 

[Additional Musicians]

Anil Bhagwat : Tabla

Alan Civil : French horn

George Martin : Piano, Hammond organ, 

Mal Evans : Bass drum

Tony Gilbert, Sidney Sax, John Sharpe, Jurgen Hess : Violins

Stephen Shingles, John Underwood : Violas

Derek Simpson, Norman Jones : Cellos

Eddie Thornton, Ian Hamer, Les Condon : Trumpet

Peter Coe, Alan Branscombe : Tenor saxophone

Geoff Emerick, Neil Aspinall, Pattie Boyd, Brian Jones, Marianne Faithfull, Alf Bicknell : Background vocals

 

Produced by George Martin

 

 

ビートルズは、終わってみれば全部紹介してる、かも

 

 ビートルズという名を知ったのは小学生だっただろう。それが何者かもわからず。吉田拓郎井上陽水矢沢永吉なども同じだ。名前は出てくるのだ、小学生が読む本なんかにも。すごい歌手であることもそこから読み取れていた。ではどんな人でどんな歌なのか、小学生の私は知らない、あまり興味もないという。そういう存在だった。

 でもそれがビートルズとは知らずに、耳にしていた曲が実に多い。あとで「ああこれか」と思った曲が20くらいはあっただろう。例えば当時の子供番組「ひらけ、ポンキッキ」では「Please please me」や「Love me do」が短いコーナーのSEとして使用されていたし、「Ob-la-di, Ob-la-da」や「She loves you」、「All you need is love」、「Help」、「Ticket to ride」、「Here comes the sun」etcetcなどがテレビやラジオで頻繁に使われていたのだろう。初聴で「知ってる」と思った曲がかなりあった。

 そこから踏み出すことになったのは1980年1月、ポール・マッカートニーが成田空港に降り立った途端、大麻取締法違反で逮捕された事件だった。この時期、私は中学受験の追い込みの時期で、深夜ラジオを聴きながら勉強する日が続いていたのだか、ラジオのニュースでその事件を知った。翌日の新聞にも大きく報じられた。そこでこの人がビートルズということを知ったのだった。

 受験は失敗し、地元の中学に通うと、そこの英語の教科書にジョンとポールが出てきたのだった。ビートルズは教科書にまで登場するのか。これで少しずつ興味が湧いてきた。

 当時NHK-FMの平日夕方4時10分から6時まで「軽音楽をあなたに」という番組があった。軽音楽というものがなんなのかも知らず、また軽音楽なんて言い方も今にして思えばポップス黎明期を引きずっているようで、おかしい。いや、2021年の現段階から見れば、黎明期の終わりくらいになるのか。

 要は洋邦のポップ・ロックを特集して流してくれるプログラムだったのだが、そこで1週間通してビートルズのアルバムを全部オン・エアするという特集があった。これは好機となけなしの小遣いをはたいてカセット・テープを10本買い込み、学校が終わったらすぐに走って家に帰り、すべてエア・チェック(録音です)したのだった。前にも書いたが、当時のFMはオン・エア・リストを事前にFM誌に掲載し、なおかつアルバムの場合はご丁寧にA面が終わったらカセット・テープをひっくり返して巻き戻すくらいのインターバルをDJのおしゃべりで空けていてくれるという、なんともご丁寧な構成だったので、無事にすべてのアルバムを録音できたのだった。

 もちろんその後はテープを聴きまくった。のだけどそこはやはりまだ中1、理解できないサウンドもかなりあった。当時はやはり初期から中期手前のものを好んで聴いていて、2枚組ベストで言えば「赤盤」あたりがヘビー・ローテーションだった。

 ほぼアルバムを揃え、「さあこれからガッツリとビートルズとの付き合いがはじまるぞ」と思っていた矢先だった。ジョン・レノンの銃殺のニュースが飛び込んできたのは。夕刊で知ったと記憶している。しかもその日の夕方は雨だったことも絵面として脳裡に刷り込まれている。当時の私のまだペーペーのビートル・マニア。そんな私でもずっしりと心に重りを押し込まれたように気持ちで沈んでいった。2ヶ月前に発表されていたジョンのアルバム『Double Fantasy』もFMでアルバムごとエア・チェックしてよく聴いていただけに、「Starting Over」のイントロの「りん」様の音の暗示するものに畏怖したものだった。

 ちなみのこの10年後の冬、私はニューヨークのセントラル・パーク前のダコタ・ハウスの前に立った。

 私のビートルズはかくの如く、1980年がはじまりであり、同時にある種の終わりでもあったのだった。はじまった途端に封印されてしまった。

 先の「軽音楽をあなたに」の特集は英国版のオリジナル・アルバムをオン・エアしてたのだと思う。『Magical Mystery Tour』はなかった。このアルバムは翌年、誰かから借りて聴いた。誰だかは覚えていないことにする。で、これが見事に自分の当時の音楽的ツボにはまった。以降しばらくはこのアルバムが一番のお気に入りとなったのだが、少しずつ成長して高校になると中期・後期の作品に心惹かれる。その頃にはビートルズのあれやこれや、各メンバーの志向や葛藤なども知って、それが作品に反映されていることもわかってきていたから、より哲学的に聴くようにもなっていた。

 音楽的素養もローティーンの頃とは比べものにならないほど広く深くなっていたから、時代背景や世相などというものも作品を聴く上では重要なファクターになってきていた。

 だからどの時代のアルバムも好きで、たった8年でよくぞここまで変化し、実験し、世に問うてきたものだとあらためて驚愕してしまう。

 きっと、もしこの「名盤アワー」が長く続けば、ビートルズのアルバムは結局全部紹介することになるだろうと、すでに思うのである。

 問題は最初に何を紹介するか、なのだ。これは難問。ビートルズのアルバムでベスト1はどれって聞かれても、即答など無理。と言いつつ、すーっと浮かんでくるものはある。それが『Revolver』なのだ。ベスト1なのかどうかはわからない。けれどもそのジャケットが最初に眼前に現れてくる。そして「Taxman」のイントロ部のカウントのささやきが耳に響いてくるのだ。

 

 

 

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無節操なくらいのバラエティに富んだ曲が並ぶ

 

 オープニングは「1,2,3,4,1,2」からはじまる「Taxman」。ジョージの曲で幕が上がるのだ。今回ヘッドフォンでじっくりと聞くと、思っていたよりも大胆にパートを左右に振っていると確認。左チャンネルに演奏。真ん中に声。右はタンバリンやカウベルなどのパーカッション。間奏のヘビーなリードギターは右で独壇場だ。この曲の例の印象的なリフはベースで奏でられ、最後にギターがユニゾンになる。ずっとギターはリフを弾いていると思っていたが。途中のポールのベースがはちゃめちゃに動く。

 2曲目は「Eleanor Rigby」。ポールの曲だが、ライナー・ノーツによれば詩の大半はジョンが書いたという。演奏はバイオリン、ビオラ、チェロのみの弦楽奏。弦独特の切れとスピード感がある。ポールのボーカルはサビのみ中央に来る、あとは右チャンネル。エンディング前の「I look at all the lonely people」のポールの声は左。昔ラジオかなんかで「father McKenzie」が「ハザマ・ケンジ」に聞こえると言ってた奴がいた。不遜。しかしもうそのようにしか聞こえなくなった。聞くたびにその字面が過ぎる。ストリングス・アレンジはポールとジョージ・マーティン

 次の「I’m Only Sleeping」はジョン。ライナー・ノーツによれば、「その、哲学的でさえある瞑想の世界は、今日のジョンに見られる実践的な生活態度に通ずるものがあり、彼の根本的な思想の背景を思わせる」とある。2番の歌詞を見てみる。

 

 Everybody seems to think I’m lazy

 I don’t mind I think They’re crazy

  running everywhere at such a speed

 Till they find there’s no need(there’s no need)

 Please don’t spoil my day

  I’m miles away and after all

 I’m only sleeping

 

 みんな僕をなまけ者と思ってるらしい

 僕はちっとも構わないさ そんな連中こそ

  どうかしてるんだ そこら中すごい早さで走り回り

 結局そんな必要がないって気がつくのさ

 お願いだから僕の一日をめちゃくちゃにしないで

  まだぼうっとしたままなんだから

 僕はただ眠っているだけさ

 

 確かにジョンの思想の一端という感じがする。サウンドはドラム、ベース、アコギの気だるいフォーク・ロック。ところどころで入るエレキは例のテープ・エフェクト。これがサイケに聞こえる。ジョンのあくびらしきものも収まっている。

 そして4曲目にジョージの問題作、「Love You To」。シタールやタブラをフューチャーしたインディア・ポップとも呼べる怪作だ。中1のときは正直理解不能、いいとは思わなかった。しかし年を経るにつれ、少しずつその快さに気持ちが浮ついていった。ジョージ自身がシタールを弾いており、タブラの音でトリップ。よくぞこんな曲を想起し、まとめたものだ。ちなみにシタールは前作『Rubber soul』に収録されている「Norwegian wood(This bird has flown)」でも使用されているが、「Love You To」のほうが濃厚、インドそのものである。

 その次はもはやスタンダードとも呼べる「Here There and Everywhere」。「いつでもどこでも君と一緒」というラブ・ソングで、ポールの歌い方も実に優しく、甘い。この曲、キーボード類が一切入っていないことに今更ながら気づいた。ドラム、ベース、エレキ・ギターが最低限の音を刻んでおり、重厚なコーラスが空間を埋めている。

 A6にリンゴの「Yellow Submarine」。波の音やあぶくの音などのSEを楽しんで入れている光景が目に浮かぶ。パーティのようなSEとバック・ボーカルにはスタッフや友人が参加。ストーンズブライアン・ジョーンズの名もある。カラフルに聞こえるサウンドだが、意外と音数は少ない。スネアの抜けが非常にいい。

 A面最後はジョンの「She Said She Said」。「彼女は言うのだ、死ぬってどんなことか、悲しみってどんなことか、私は知ってるのよ」といったような歌詞。ミドル・テンポのロックで、ライブで映えそうな曲。シタールっぽい響きのギターが曲を支配している。ポールのベースもブンブンいっている。ドラムもトリッキーなプレイを随所に見せる。リズム隊は左チャンネル、ギターは左、ボーカルが中央という配置。

 

 

 

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『Revolver』から1曲と言われればサイケ極まる「Tomorrow Never Knows

 

 B面は牧歌的なポールの「Good Day Sunshine」から。普通すぎて当時は流し気味に聴いていた。これはこれで味があるが、本作に並ぶクセの強い曲たちの中に入ると、やはり印象は薄いかな。右チャンネルのピアノの低音は気持ちいい。左はリズム隊。ギターは入っていない。

 だがその次の「And Your Bird Can Sing」はとても好きだった。ツイン・ギターのフレーズのかっこよさ、独特な動きのポールのベース、疾走感があった。よくギターで弾いたものだ。左チャンネルから聞こえるリンゴのハイハットはなんと四つ打ちだ。右のおそらくタンバリンと思われるリズムは複雑に刻んでいる。ライナー・ノーツに「ジョンにしてみると物足りなさが残るらしい」とある。突きつめようとすれば確かにもっと行けるかも知れない。

 B3はポールのバラード「For No One」。クラビコードとフレンチ・ホーンというおしゃれな組み合わせで「愛の影もない涙」と歌う。バックの音のせいか、ポールの声がリアルに聞こえてくる。本作はサイケデリックなアルバムとして名高いが、いやいやポールのバラードに佳曲が多いのも隠れた魅力となっている。この曲のほか「Eleanor Rigby」、「Here There and Everywhere」とビートルズを代表するバラードが収まっていることで、アルバム全体の「重し」ともなっているようだ。ジョンは「ポールの書いた曲の中でもっとも好きな曲のひとつ」と言っている。

 B4はジョンの「Dr. Robert」。比較的オーソドックスなミドル・テンポのロックンロールなのだが、途中のブレイク部分のコーラスがクッションになり、より「らしさ」を醸している。ここは「ポールの協力を得て」完成させたとある。

 そしてジョージの「I Want To Tell You」。ギターのリフが印象的で、ほぼ全編コーラス・ワークに彩られている。主役は三連のピアノ。リード・ボーカルのジョージはずっと右側にいる。ここに来てジョージのジョージたるを確立してきたような曲。本作に収められたジョージの3曲は、どれもタイプの違った曲で、ソング・ライターとしての幅が大きく広がった。

 そしてホーン・セクションがゴージャスなご存知「Got To Get You Into My Life」。ホーン・アレンジはポールとジョージ・マーティン。歌詞は「突然出会った君が僕には必要なのさ、ずっと、1日も欠かさずに」といったストレートでケレン味のないもの。本アルバムにおけるポールの詩はどれも素直で実直なのだが、この曲の詩にはジョンとジョージも協力しているという、意外だ。のちにEarth, Wind & Fire がカバーし、そこはホーンの大本山、見事にモノにしたアレンジを施している。

 そしてアルバムを閉めるこの「Tomorrow Never Knows」が、私にとっては何と言っても『Revolver』のカラーを、永遠性を決定づけている。おそらく、多くの人がそうなのではないだろうか。

 シタールからはじまり、ドラムとベースは中央でワン・コード、延々とループ。ジョンのボーカルは最初は中央と右のダブル・トラック。そして左と中央には大胆にテープ・エフェクトが施されたおそらくギター。ギターには聞こえないけど。これがまったく前衛的に随所に現れる。間奏のギターはきちんと弾いているのか、手が加えられているのか。とにかくスリリングなのだ。目が回るのだ。いろいろな色が混ざり合っているのだ。で、最後はホンキートンク・タッチのピアノがちょっと入ってエンディング。

 凄まじい曲だ。はっきり言って、ラリってる。ジョン自身が言っている。

ラバー・ソウル大麻アルバムで、リボルバーLSDアルバムだ」と。

 このアルバムのレコーディングがはじまる前に、ジョンとジョージはLSDを体験した。その後、ポールも誘ったが、ポールは断ったという逸話もある。

 歌詞もまた超然としている。全部掲載しよう。

 

 Turn off your mind relax and float down stream

 It is no dying

 It is no dying

 

 Lay down all though surrender to the void

 It is shining

 It is shining

 

 That you may see the meaning of within

 It is speaking

 It is speaking

 

 That love is all and love is everyone

 it is knowing

 it is knowing

 

 When ignorance and haste may mourn the dead

 it is believing

 it is believing

 

 But listen to the colour of your dreams

 it is not living

 it is not living

 

 Or play the game existance to the end

 Of the beginning

 Of the beginning

 Of the beginning

 

 

 意識を離れ、安らかに流れに身をゆだねてみる

 それは「死」ではない

 それは「死」ではない

 

 横たわり、空間に身をまかせると

 それは輝きを放つ

 それは輝きを放つ

 

 そうすれば自ら内含される意味がわかろう

 それは話している

 それは話している

 

 愛こそすべて、愛は存在

 それは知っている

 それは知っている

 

 無知なるものと性急さが死者をなげく時

 それは信じている

 それは信じている

 

 しかし夢に耳をそばだてよ

 それは生きている事ではない

 それは生きている事ではない

 

 あるいは存在から無へのゲームのはじまり

 そのはじまり……

 

 もうそのまま味わうしかない。これがこの時期のジョン。しかしこれらが少しずつ能動的になって後期のジョン、解散後のジョンを作り上げたとも言えるような気がする。

 いや、あとにも先にもこんな曲、誰も書けない。名作である。

 

 

 

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ジャケ裏のこの写真がかっこよすぎて、部屋に飾ったものだった



前期と後期を分けるターニング・ポイントの作品、ライブからレコーディング志向へ

 

 

 ビートルズの8年のうち、前半4年はかなりのライブをこなしていたが、後半4年はまったくライブは行っていない。その境にあるのが本作である。実験的なレコーディングをはじめたのでライブでの再現が難しくなったことや、メンバー間でライブへの情熱がなくなったというだけでなく、スケジュールの過酷さにうんざりしていたり、ライブの機材面での不満があったり、あるいはツアーを行うことでファンが殺到し、身の危険を感じるようになったり、ファン自身が危ない目に遭ったりと、ネガティブな面が一気に噴出してきたのだった。

 本作のレコーディングが終わったのが1966年6月20日頃。つまりこの『Revolver』制作直後に来日し、武道館公演を行っていることになる。

 ビートルズは東京滞在時、滞在する東京ヒルトンホテルに事実上の缶詰だった。そんなことまでして世界を回ることに疑問を感じていたという。当然だろう。

 英国での本作発売は8月5日だ。ビートルズの最後のライブは8月29日のサンフランシスコ公演だから本作発売後となるが、気持ちはステージではなくスタジオにあったのだろう。そしてスタジオ・ワークに音作りの楽しさや可能性を感じながら制作したのが翌年の『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』なのだった。

 ライナー・ノーツのヘッド・コピーは、

「ジャケット、詩そして音、その全てにアートの香りが溢れているビートルズの頭脳的傑作集」

 アートの香りで、頭脳的傑作。1966年当時の音楽状況や、その制作技術を考えれば言い得て妙。流行りはじめたサイケデリックな芸術をビートルズが取り込んだことにより、サイケが一気に市民権を得ることとなったという話もある。

 アルバム・ジャケットもまたこれまでにない「アート」と言える。メンバーの顔の線画に目だけ写真を切り貼りし、そこに無造作にいくつかのメンバーの写真を散らしたモノクロタッチのジャケット。制作したのはドイツのクラウス・フォアマン。彼はビートルズがデビュー前にハンブルグでライブを行っていたときに知り合い、以降長い付き合いとなった。デザイナーであり、ベーシストでもある。『Revolver』のアート・ワークは1967年グラミー賞の「最優秀レコーディング・パッケージ賞」を受賞している。1996年に発表された「The Beatles Anthology」のジャケット・デザインも彼だ。

 2003年版の『ローリング・ストーンの選ぶオールタイム・ベストアルバム500』では3位、2020年版では11位となっており、2003年の紹介文の中で「they’d already entered another word」、「彼らはすでに別世界へと入っていった」とある。

 当時発売後は米英のみならず、西ドイツ、オーストラリア、スウェーデンでチャート1位を獲得。日本で発売されたのはかなり後のこと。当時は英国版がそのまま他国でも発売されるということはあまりなかったらしく、米国版はすでに別の形で販売されていた3曲を除いた全11曲で構成された。

 英国の『レコードコレクター誌による 100 Greatest Psychedelic Records』ではイギリスチャートで1位。やはりサイケの代表のようなアルバム。私もずっとそう思っている。

 だが今回、改めてじっくりとアルバムをリピートしてみて「あっ」と思ったことがある。多くの実験が施されてカラフルなイメージのあるアルバムなのだが、思ったよりも音数が少ないのだ。ビートルズ自体の演奏は極めてシンプル。そして何よりもビートルズ独特のコーラス・ワークが、このアルバムにおいてはより際立っているように感じられたのだ。

 ついついサイケだLSDだとレッテルをつけて聴きがちなアルバムなのだが、その根底には変わらぬコーラス・ワークの秀逸さが支えている。それが『Revolver』なのだった。こうしたカラーはここから後期へ向かっていくにつれ少しずつ薄れていく。というか形を変えていく。サウンドのほうの幅がどんどん広がっていって、そちらに重きが移っていく。やはり本作は前期と後期の過渡期、端境期のアルバムなのである。

 

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おまけに帯付きも。この帯にも愛着は大きい。

 

Revolver

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