ROCK、POPの名盤アワー

~ALBUMで堪能したい洋盤、邦盤、極めつき音楽遺産~

ごあいさつ〜イントロを堪能したいのだ

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 ネット配信やダウンロード、サブスクリプションで当今の音楽を聴くスタイルが確立した。

「手軽に好きな曲だけいつでもどこでも聴ける」、それが今の音楽の聴き方だ。

 人間が音楽をどのように聴いてきたか、これを語りはじめると立派な論文がきっと出来上がる。

 農作業の合間に歌われたうた、宮廷での生演奏に招かれなければ聴けなかった中世ヨーロッパの弦楽奏、祭りで奏でられる囃子、街角での吟遊歌。昔は「ライブ」でしか音楽を聴けなかった。

 それがレコードの発明による音楽の記録化という大革命で変わる。これで音楽を我が家で楽しめるようになった。

 その後、記録媒体は推移していく。ちょっと大掛かりなオープンリールテープ、そしてコンパクトなカセットテープが普及し、ウオークマンが登場する。好きな音楽をいとも容易く外に持ち出していつでも聴けるようになった。これはレコード登場に次ぐ第二次リスニング革命だった。その後アナログからデジタルと変わって、データで保存。かさばらなくなって、今日に至る。

 音楽という実態のない存在が、レコードというモノとして存在するようになり、そしてデジタルデータというまた手に触れることのできない音に帰った。

 

 記録媒体が変わっていくごとに、音楽の聴き方が変わるだけでなく、楽曲の作り方までもが変容していく。

 

 レコード時代、記録できる時間は33回転のLP盤でおよそ40~50分。

 33回転て何? という若い世代の声が聞こえる。これはレコードの回転数。1分間に33回転するスピードでレコードを回すということ。他に45回転、78回転とある。回転数が多ければ(スピードが速ければ)音質は良くなる。だが、記録時間が少なくなる。当時はシングル盤(SPと言ってました)が45回転で、LPが33回転というのが一般的だった。78回転というのは、音質にこだわるクラシック曲で採用されていたようだったが、収録時間が短くなってしまうので、あまり見なかった。

 で、アルバムは40~50分の収録時間を確保したくて33回転採用。これに合わせて、カセットテープは46分録音できる商品が主流だった。

 さらにレコードもカセットテープも裏表がある。曰く「A面」と「B面」。だから半分まで聴き終わると裏に返さなければならない。のちにカセットデッキには「オートリバース」という機能が装備されて、ひっくり返さずとも両面聴ける商品も出た。

 こうしたフォーマットを持ったレコードである。作り手側もこのフォーマットを意識してアルバムを製作していた。

 それはA面の最後にどの曲を置くか、B面の最初はどれにするか、といった具合である。これが実はかなり重要で、聞く側も当然そこを意識するようになる。

 だから後年、CDが発売されたときはぶっ通しで70数分という記録方法を受け入れるのに、かなり抵抗があったあるいは馴染めなかったというレコード人は少なくないはずだ。

 作り手もここは苦労したと思う。一枚のアルバムの「節目」をどう作るか。どのようにアルバムという物語を紡いでいくか。

 CDが普及しはじめた当初は、レコード時代の癖や習慣が残っていたこともあり、CDでも50分前後の収録にとどめた作品が多かったが、だんだんと記録可能のギリギリまで収録する作品が増えてきた。いわゆる「オケ」や別バージョンなどをボーナストラックとして収録し、残り時間を埋める作品も多くなった。つまりお得感を出した方が売れる、と思ったのでしょう。

 でも1時間以上続けて聴くことは、忙しい現代人にはなかなか難しい。移動中や車の中ではなかなか集中して聴くことができないことも多い。

 もう一点、CDとなって大きく変わったのが、曲の頭出しが「即」という点。これが相当に音楽を聴くスタンスを変えてしまった。

 レコードの場合は盤に針を落としたら、基本的にはその面が終わるまでは聴く。時折は好きな曲だけを、その部分に神経使って針を落として聴くこともあったが、これは面倒で疲れる。だからあまりそれはしたくない。

 しかしCDではワンプッシュで次の曲に移る。言い換えれば、聴き飛ばしが簡単なのだ。だから聴きたくない曲を飛ばして、聴きたい曲だけを聴く、ということになる。

 これによって選曲のイニシアチブがリスナーに移ったとも言えるのだ。アルバムの曲順だって自由に変えられる。

 サブスク時代になるとさらに拍車がかかる。聞いたことはないが気になる曲をちょっと聴いてみる。お気に召さなければ曲の途中で次の曲へ移る。

 こうなると作り手側は戦々恐々だ。

 曲の早い段階で勝負しないと、最後まで聴いてもらえない。さてどうする。

 その対処手段のひとつが、イントロを短くする、あるいはカットしてしまうという方法である。かなりの荒技だ。いきなり歌い出しからスタートする歌がこの数年多いと思う。それにはこんな理由があったからなのだ。

 

 でも、イントロをゆっくりと味わって、そして気持ちを盛り上げてから曲に入っていきたい。一曲終わり、次の曲が始まり、その繋ぎに、構成の妙に「オッ」と言いたい。小一時間どっぷりと作り手の企みと感性と技術を堪能したい。

 近年ますますそのように感じるのは、単に古い世代だからというだけなのか。

 いや、そうでもないようだ。この数年、レコードがまた売れてきているという。古い作品ばかりでなく、ニューアルバム発表とともにレコードも同時発売するアーティストがかなり増えてきている。慌ただしく曲をチョイスするのではなく、好きな作品をじっくり楽しみたいという欲求が再びメラメラと湧き上がっきているのだろうか。

 音楽をどのように聴くかは、自由だ。だが、作り手のこだわりに身を委ねるのも心地のいいものである。

 一枚通して聴いて、深い感慨に包まれる。高揚する。脱力する。そんなアルバムが1970~1980年代には数多く存在する。いわゆる「名盤」の数々。そんな音楽の至宝をこれから紹介していきたい。私の音楽の歴史を形に残すという意味もある。

 音楽に関して私は洋邦問わずかなりの雑食だったので、様々なジャンルのアルバムを聴いてきた。そんな中から今、再び聴いておきたいアルバムを引っ張り出してくる。古い世代には懐かしく、あの時代にタイムトリップしてもらいたい。若い世代には宝探し感覚で気軽に聴いてみて欲しい。

 基本的にコアは1960~1980年代のレコードである。でもCD時代になっての名盤にもときには触れてみたい。と言っても、後年は新しい作品をそれほど多く聴いていないので、かなり偏るとは思うけれど。

 一日の終わりのひとときに、一枚のアルバムを堪能していい気分になって眠ってもらいたい。私も自分の音楽史を振り返るようで、とても楽しみなのである。